セックスレスが原因で浮気をした場合の慰謝料支払義務の有無を、法的根拠から解説します。配偶者とセックスレスになり、寂しさを我慢しきれず不倫に走ってしまう方は多いようです。しかし、夫婦には貞操義務があり、配偶者以外の異性との性交渉は不法行為と判断され、慰謝料の支払義務を負う可能性があります。
目次
まずは「セックスレス」の定義について見ていきましょう。
セックスレスとは、「1ヶ月以上セクシャルなコンタクトがない状態」を指します。1991年にあべメンタルクリニック院長の阿部輝夫氏が提唱した言葉ですが、後に、診療・臨床研究などを通じ性の健康促進をはかる専門家団体・日本性科学会により以下のように定義づけられました。
『特殊な事情が認められないにもかかわらず、カップルの合意した性交あるいはセクシャル・コンタクトが一ヶ月以上なく、その後も長期にわたることが予想される場合』
特別な事情がないにもかかわらず1ヵ月以上性交渉がなく、今後も同じ状態が続くと予想される夫婦などはセックスレスと考えられます。
日本国内においては、夫婦間のセックスレスは特別なことではないといわれています。このことは、コンドームの製造販売などを手掛ける相模ゴム工業株式会社が47都道府県の20~60代14,100人(1都道府県300名、成年大機当割り付け)を対象に行ったWEB調査「ニッポンのセックス」でわかります。同調査では、既婚者の55.2%が「セックスレスだと思う」と回答。40~50代男性においては約6割がセックスレスと感じています。定義を理解したうえで回答しているとはいいきれませんが、日本国内においては珍しくないと考えられそうです。
次に、不倫で慰謝料支払いが義務付けられていることの法的根拠について解説します。
結婚している2人は、それぞれが貞操義務を負っています。浮気や不倫をすると慰謝料を払わなければならない理由として挙げられるのが「配偶者以外の異性と肉体関係をもってはならない」とする貞操義務です。貞操義務は夫婦それぞれが守らなければならないものと考えられています。
配偶者以外の異性と肉体関係を持つ浮気や不倫は、貞操義務に違反する行為です。さらに、民法上では、離婚原因になり得る不法行為でもあり、不法行為をした側は不法行為をされた側に対して損害賠償責任を負います。つまり、配偶者から損害賠償を求められた場合、慰謝料を支払わなければならないのです。
既婚者と浮気や不倫をした人は一緒に不法行為をしたことになるので、共同不法行為の責任を負います。ただし、すべてのケースで不法行為が成立するわけではありません。浮気や不倫をする前に夫婦関係が完全に破綻しておらず、故意または過失があったときに不法行為は成立します。具体的には、既婚者であることを知っていて夫婦関係に影響を及ぼすことを理解していた(故意)ときや注意すれば既婚者であるとわかる状況だったにもかかわらず見落としていた(過失)ときなどに不法行為は成立すると考えられており、不法行為が成立すると、浮気相手も損害賠償責任を負います。
それでは、セックスレスが原因で不倫をした際の慰謝料支払義務について見ていきましょう。
慰謝料の支払義務において重要な意味を持つ要素が「夫婦関係」です。「セックスレス=夫婦関係の破綻」と考える方がいるようですが、セックスレスと夫婦関係は異なるため、セックスレスであるから夫婦関係が破綻しているとはいえません。不倫をした時点でセックスレスであったとしても夫婦関係が破綻していなければ、不倫された側は慰謝料を請求できます。離婚しない場合は不倫相手に、離婚する場合は配偶者と不倫相手に慰謝料を請求することなどが考えられます。
夫婦関係がすでに破綻していた場合は、慰謝料を請求することはできません。浮気や不倫をする前にセックスレスで夫婦関係が破綻していた場合は、守るべき権利が存在しないため慰謝料を請求できないと考えられており、やはり重要になるのは夫婦関係です。夫婦関係が破綻していると認められやすいケースとして、夫婦の一方がセックスを求めていたのにもう一方が応じず夫婦仲が悪くなり別居していた場合が挙げられます。裁判で夫婦関係の破綻が認められるためには、具体的かつ客観的な事実を示す必要があります。簡単に認めてもらえるわけではない点に注意が必要です。
セックスレスが原因で浮気をした場合、状況により減額される可能性もあります。支払うべき慰謝料の相場や減額の可能性について解説します。
不倫による慰謝料の相場は、50~300万円です。不倫発覚後の離婚の有無により相場は異なり、離婚しない場合の相場は50~100万円程度、離婚する場合の相場は200~300万円程度といわれています。具体的な金額は、婚姻期間、不倫期間、肉体関係をもった回数、収入や社会的地位、子供の有無などにより異なり、婚姻期間が長い、不倫期間が長い場合などは、慰謝料の金額は高くなる傾向があります。
不倫交際開始前に夫婦関係が悪化していた場合は、慰謝料の金額を減額できる可能性があります。また、破綻を認められる場合は、慰謝料の支払義務自体が生じません。ただし、セックスレスだけで慰謝料の金額が減額されることはなく、セックスレスで夫婦関係がどのように変化したかが重要になるといえるでしょう。裁判では、夫婦関係の状況は慎重に判断され、夫婦関係が破綻していたことを主張する場合には、その事実の立証が必要になります。
セックスレスが原因で不倫をしたとしても、夫婦関係が破綻していなければ慰謝料を払わなければならない可能性があります。妥当と考えられる慰謝料の金額はケースで大きく異なるため、慰謝料を請求された方は、個々の状況に応じ支払いの必要性や金額の妥当性などを判断する必要がありますが、判断には法律的な知識を要します。一人で対処しきれない方は、法律の専門家に相談してみてはいかがでしょうか。事実関係を整理したうえで、それぞれのケースに合った最善の解決法を提案してもらえるでしょう。