不倫慰謝料を財産分与で相殺できるか否かについて、実際の事例を元に解説します。財産分与で不倫慰謝料の相殺を行うことは可能ですが、必ずしも実現可能なわけではありません。相殺するためには要件があり、請求者に対し適切な対処を行うことも必要です。財産分与での相殺を実現させるために必要な事項を、実際の事例から見ていきましょう。
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ご相談の経緯は次のとおりです。
ご相談者様は、過去に行った自身の不倫で離婚することになり、妻から慰謝料300万円を請求されている40代・既婚男性です。慰謝料の支払いには納得しているものの、婚姻期間中に妻がご相談者様名義でカードローンから300万円の融資を受けていたことが気になるとのこと。妻は浪費が原因で、カードローンから融資を受けていたそうです。Aさんは、離婚にあたりカードローンの返済を妻に求めたいと考えたことからご相談に至りました。
ご相談者様の疑問あるいは悩みは、「妻が融資を受けているカードローン300万円の支払いと離婚の慰謝料300万円の支払いを相殺できないか」です。どちらも300万円であることから、相殺できれば面倒な手間を省け合理的だと考えられますが、カードローンの支払いと慰謝料の支払いを相殺することはできるのでしょうか。
双方の合意の上であれば相殺は可能です。
不倫慰謝料と財産分与の相殺は、次のように、双方の合意の上で可能となります。
妻が、慰謝料の支払いとカードローンの支払いの相殺を求めるのであれば可能です。Aさんのケースであれば慰謝料の金額とカードローンの返済額が同じであることから、双方の支払いは相殺されます。両者にとってメリットのある解決法といえるかもしれません。
ご相談者様だけが相殺を希望している場合は、慰謝料の支払いとカードローンの支払いを相殺することはできません。片方の希望だけでは実現しない点に注意が必要です。
不倫という不法行為を行った人物は、相殺を主張することができません。片方の希望だけで相殺できない理由は、民法509条により、慰謝料を相殺の対象にすることはできないためです。不倫は配偶者以外と肉体関係をもつべきではないとする貞操義務に違反する不法行為であり、不法行為により生じる慰謝料を相殺の対象にできると、債務を負っている人を弱い立場に追い込むことになりかねません。例えば、債権者が返済してもらう代わりに債務者に何らかの被害を負わせ、債務と慰謝料を相殺することで帳消しにすることなども考えられます。被害者を保護しなければならないと考えられていることから、慰謝料を支払う側が一方的に相殺を主張することはできません。慰謝料の支払いとカードローンの支払いを相殺できる可能性はありますが、不法行為を行った側が一方的に求められない点には注意しましょう。
慰謝料と財産分与の相殺を検討しているなら、法律の専門家に相談してから対応に当たりましょう。今回のケースに限らず、離婚の協議は複雑になりがちです。慰謝料、財産分与、養育費などさまざまな事柄を検討しなければならず、協議の進め方や条件の調整には法律の知識を必要とします。法律の知識がないまま協議を進めると、大きな問題に発展しかねないため、離婚を検討している方や離婚の慰謝料と財産分与を相殺したい方は、法律の専門家に相談しましょう。現在の状況をもとに、最適な解決法を提案してくれるはずです。